大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和42年(ワ)5579号 判決 1969年5月23日

原告

熊野力王

被告

佐久間喜三

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し一五六万七〇〇〇円および右金員に対する昭和四二年六月一一日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの、各負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、請求の趣旨

(一)  被告らは、各自原告に対し三〇二万六八〇〇円および右金員に対する昭和四二年六月一一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行の宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者双方の主張

一、原告の請求原因

(一)  (事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(1)発生時 昭和四一年七月一八日午後六時三〇分頃

(2)発生地 東京都千代田区神田小川町一〇番地先路上

(3)事故車 事業用普通乗用自動車(品川五う四五一七号)

運転者 被告佐久間喜三(以下、佐久間という。)

(4)被害者 原告(横断歩行中)

(5)態様 事故車が駿河台交差点方面からお茶の水駅方面に向かつて進行中、その前方を右方より左方に横断中の原告と接触したものである。

(6)結果 原告は、左下腿骨開放性骨折の傷害を受け、右足背の感覚低下、右第一趾の背屈運動障害の後遺症を残した。

(二)  (責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

(1) 被告佐久間は、事故発生につき、前方不注視の過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

(2) 被告会社は、事故車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(三)  (損害)

(1)通院交通費 三万一八〇〇円

(2)休業損害 九四万五〇〇〇円

原告は、右治療に伴い、次のような休業を余儀なくされ九四万五〇〇〇円の損害を蒙つた。

(休業期間) 一〇・五カ月

(事故時の勤務先) エンサイクロペデイアブリタニカ ジヤパンインコーポレーテツト日本支社

(事故時の月収) 九万円

(3)慰藉料 二〇五万円

原告は、本件事故により、前記傷害を受け、昭和四一年七月一八日より昭和四二年二月二八日まで入院治療をなし、引き続き、通院治療をしたが、前記後遺症を残したから、その慰藉料としては、二〇五万円が相当である。

(四)  (結論)

よつて、原告は、被告らに対し、三〇二万六八〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四二年六月一一日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二、請求の原因に対する被告らの答弁ならびに抗弁

(一)  第一項中(一)ないし(五)は認める。(六)は知らない。

第二項中、(2)は認めるが、(1)は否認する。

(二)  (過失相殺)

原告は、横断歩道が附近にあるにもかかわらず、これによらず、かつ、斜めに、事故車の直前を横断しようとしたものである。しかも、原告は本件事故現場を駆足で横断中、事故地点で急に止まろうとして勢い余つたすえ、事故車の前、後輪の間に自ら左足を投げ出して転倒し、そのため、右後輪で左足をひかれたものである。

右のとおりであつて、事故発生については原告の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

(三)  損害の填補

原告は被告らから本件事故発生後、治療費附添看護費として、合計八七万四、九六〇円を受領したほか、強制賠償保険金として、一〇万円を受領しているので、右額のうち、右一〇万円は控除さるべきである。

三、抗弁に対する原告の答弁

原告が被告ら主張の金員を受領したことは認めるが、右はいずれも、本訴請求外の損害に充当されたものである。

第三、当事者双方の提出、援用した証拠

〔証拠関係略〕

理由

一、(事故の発生)

原告主張の日時、場所において、原告主張の事故(但し、原告の受傷の部位、程度を除く。)が発生したことは、当事者間に争いがない。〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故により、左下腿骨開放性骨折の傷害を受け、後遺症として、足関節運動にほぼ正常運動範囲の二分の一に達する程度の障害ならびに運動痛(労働者災害補償保険法の障害等級で第一一級にあたる。)を残したことが認められる。

二、(責任原因)

(一)  被告佐久間について

〔証拠略〕によれば、以下の事実を認めることができる

すなわち、本件事故現場は、駿河台交差点からお茶の水駅方面に通ずる幅員一六・六メートル、その両側は二・七メートルの歩道付のアスフアルト舗装道路と靖国通りに至る幅員七メートルのアスフアルト舗装道路とが別紙のとおりT字型に交わる交通整理の行われていない交差点であつて、横断歩道は、事故現場からお茶の水駅寄り二〇メートル先のところにある。被告佐久間は、事故車に客を乗せて駿河台交差点方面からお茶の水駅方面に向けて時速三五ないし四〇キロメートルの速度で中央線寄りを進行し、本件事故現場附近に差しかかつた際、事故車の右前方約二〇メートル位先に右方から左方に向けて原告ら四人の歩行者が中央線附近にまで横断しているのを発見したものの、同人らが立ち止まつてくれるものと考えそのまま進行したところ、右のうち、二人が事故車の直前をかけ足で横断したため、これに注意をうばわれ、中央線まででてきていた原告に気づかず、そのすぐ脇を通過した。一方、原告は事故車の前方を横断するにつき、事故車の接近におどろき、立ち止まろうとした際、事故車の右側面で左足をすべらせて転倒し、事故車の右側後輪で左足をひかれたものである。

ところで、自動車の運転者は横断歩行者を発見したときは、終始、その動静に留意し、いつでも停車できるよう徐行するなどして事故の発生を未然に防止するための万全の措置を講ずべき注意義務があるにかかわらず、被告佐久間は、原告らが事故車をやりすごしてくれるものと軽信し、そのまま進行したため本件事故を発生させたものであるから、本件事故は、被告佐久間の過失によつて発生したものといわざるを得ない。従つて、被告佐久間は、民法七〇九条により、原告の損害を賠償する責任がある。

(二)  被告会社について

被告会社が事故車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであることは、当事者間に争いがないから、被告会社は、自賠法三条により、原告の損害を賠償する責任がある。

三、(過失相殺)

原告は、本件事故現場を横断しようとした際、前記のとおり事故車の右側面で転倒したことは先に認定したとおりであり、この転倒も本件事故発生の一因をなしていることは否定することができない。そして、双方の過失割合は、被告佐久間が七、原告が三と認めるのが相当であるから、原告の賠償額の算定につき、これを斟酌すべきことになる。

四、(損害)

(一)通院交通費

原告は、通院交通費として、三万一八〇〇円を支出したと主張するが、本件全証拠によるも、これを認めることができない。

(二)休業損害

〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故当時、エンサイクロペデイアブリタニカジヤパンインコーポレーテツド日本支社に勤務し、毎月平均九万円の収入を得ていたこと、ところが、本件事故により前記傷害を受け、昭和四一年七月一八日から昭和四二年二月二八日まで名倉病院に入院治療し、退院後も引き続き、同年四月頃まで毎週一、二回の割合で通院加療を余儀なくされ、その間少くとも九カ月間は、前記収入を得られなかつたことが認められる。そうだとすれば原告は、八一万円の得べかりし利益を失つたものということができるが、原告の前記過失を斟酌すると、右金額の七割にあたる五六万七〇〇〇円の限度で被告らに負担させるのを相当とする。

(三)慰藉料

原告が本件事故により前記傷害を受け、入、通院治療をしたが、前記後遺症を残したことは、先に認定したとおりである。そうだとすれば、原告の慰藉料としては、原告の前記過失を斟酌すると、一〇〇万円を相当とする。

五、(損害の填補)

原告が強制賠償保険金として一〇万円を受領したことは、当事者間に争いがないが、〔証拠略〕によれば、原告は、右一〇万円を入院期間中の牛乳、果物等の諸雑費に費消したことが認められるから、右一〇万円は原告主張の前記損害賠償額から控除されるべきものということはできない。

六、(結論)

よつて、原告は、被告らに対し一五六万七〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四二年六月一一日以降支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条、第九三条、第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 福永政彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例